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2026.01.17

民泊売却の相場はどう決まる?現場を知り尽くしたプロが教える評価の裏側

民泊を運営しているオーナーにとって、自分の物件が「今いくらで売れるのか」は最も関心の高いトピックでしょう。2016年から民泊・旅館業の現場に身を置いてきた経験から言わせてもらえば、民泊の売却相場には「動かしようのない算定式」と「現場の熱量で決まるプレミアム」の二面性が存在します。単純な不動産査定の感覚で挑むと、本来得られるはずだった利益を大きく取りこぼすことになりかねません。

投資家はボランティアではありません。彼らが買うのは「あなたの思い出」ではなく「将来生み出されるキャッシュフロー」です。しかし一方で、新規で許可を取ることが極めて困難なエリアや、数千件のポジティブなレビューが積み上がったアカウントには、数字だけでは説明できない価値が宿ります。ここでは、実務レベルで取引される相場の決まり方と、一円でも高く売るための評価のポイントを徹底的に深掘りします。

民泊売却価格を決定する基本の算定式

民泊M&Aの現場で最も一般的に使われるのが、営業利益をベースにした「収益還元法」を簡略化したモデルです。基本的には以下の要素を合算して算出されます。

算出要素 計算内容 評価のポイント
事業価値(営業利益) 年間の実質営業利益 ✕ 2〜5年分 運営代行費や清掃費を差し引いた「真の利益」
譲渡資産(設備・備品) 家具、家電、内装造作の時価評価 取得価格ではなく、あくまで「中古品」としての価値
権利金(プレミアム) 旅館業許可、特定エリアの希少性、アカウント評価 新規参入が難しいエリアほど高騰する傾向
敷金・保証金の承継 賃貸物件の場合の預け金引き継ぎ 契約内容により、返還権を譲渡対象に含めるか決定

教科書通りなら「営業利益の3年分が妥当な相場だ」と教わります。しかし、現実はそう単純ではありません。例えば、年間の営業利益が500万円の物件があったとして、それが「180日制限のある新法民泊」なのか「365日稼働できる旅館業許可物件」なのかで、倍率は劇的に変わります。新法民泊であれば2年分(1,000万円)でも高いと言われることがありますが、旅館業許可で立地が良ければ5年分(2,500万円)以上の値がつくことも珍しくありません。この「許可の重み」を理解しているかどうかが、相場を語る上での大前提となります。

エリア別・許可区分別の相場トレンド

民泊の相場は、エリアごとの需給バランスに強く依存します。特に東京、大阪、京都といった主要都市では、自治体ごとの上乗せ条例の影響で「二度と手に入らない許可」が存在します。

旅館業許可物件(一棟・店舗一部)の相場

365日営業可能な旅館業許可物件は、M&A市場で最も人気があります。この場合の相場は、不動産価格にプラスして、営業利益の3〜5年分が乗るイメージです。特に大阪市内の特区民泊や、京都市内の町家タイプなどは、利回り以上に「希少価値」で価格が決まる側面があります。買い手は事業会社であることが多く、彼らは長期的な減価償却とポートフォリオの安定を重視するため、高値でも成約しやすい傾向にあります。

住宅宿泊事業法(新法)物件の相場

180日制限があるため、収益性はどうしても限定的になります。この場合の相場は、営業利益の1〜2年分程度に落ち着くことが大半です。むしろ「売却」というよりは、家具代と初期費用を回収する「居抜き譲渡」に近い性質を持ちます。ただし、週末のみの稼働で驚異的な単価を叩き出している別荘エリアなどの特殊な物件は、この限りではありません。

新法民泊の売却において、最も注意すべきは「賃貸借契約の残り期間」です。契約更新が近い、あるいは解約条項が厳しい物件は、買い手にとってリスクでしかないため、相場価格から大幅にディスカウントされるか、最悪の場合は買い手がつかない事態に陥ります。

アカウントの「レビュー」はいくらで売れるのか

現場で運営を続けてきた人間なら痛感しているはずですが、Airbnbなどのプラットフォームで積み上げた「スーパーホスト」の称号や、数百件の星5レビューは、金で買えない価値があります。実務上の相場感として、非常に高い評価を維持しているアカウントは、それ単体で100万円〜300万円程度のプラス査定になることがあります。

買い手からすれば、ゼロからアカウントを作ってレビューを100件集めるまでに、どれだけの時間と低評価リスク、そして初期のプロモーション費用がかかるかを計算しています。そのコストをショートカットできるのであれば、数百万円の上乗せは「安い投資」と判断されるのです。ただし、アカウント譲渡はプラットフォームの規約に触れるリスクがあるため、法人の名義変更などのスキームを慎重に組む必要があります。ここを雑に扱うと、譲渡した瞬間にアカウントがBANされ、相場価値がゼロになるという悲劇が起こります。

現場の葛藤:内装費へのこだわりと買い手の冷徹な目

ここで、売主が必ず直面する「現場の葛藤」について触れておきます。「自分は300万円かけてこだわりの家具を揃え、壁紙も特注した。だから設備譲渡代として300万円ほしい」という売主の主張と、「中古の家具に価値はない。むしろ撤去費用がかかるくらいだ」という買い手の本音のぶつかり合いです。

教科書通りの減価償却でいえば、家具の価値は数年でほぼゼロになります。しかし、売主としては「この内装があるから今の高単価が維持できている」という自負がある。このギャップを埋めるのは、単なる感情論ではなく「デザインがもたらしている客単価の向上」を数字で証明することです。競合物件よりも20%高いADR(平均客単価)を維持できているのであれば、その内装は「中古家具」ではなく「収益を生む装置」として評価の対象になります。逆に言えば、数字が伴っていないこだわりは、相場には一切反映されないという冷徹な現実を受け入れなければなりません。

相場を引き上げるための「磨き上げ」の実務

売却を決めてから実際に売りに出すまでの数ヶ月間で、相場を20〜30%引き上げることは十分に可能です。買い手が最も嫌うのは「不透明なコスト」と「法的な不備」です。これらを整理するだけで、評価倍率は確実に上がります。

  • 清掃フローのマニュアル化とコスト最適化(誰がやっても同じ利益が出る状態にする)
  • 過去の騒音クレーム履歴の整理と、現在の対策状況の明文化
  • OTA(Airbnb等)のメッセージテンプレートの整備
  • 修繕履歴のリスト化(エアコン、給湯器等の交換時期)
  • 消防点検や保健所の立ち入り調査結果の整理

特に、運営代行会社に丸投げしているオーナーは注意が必要です。代行会社が作成した報告書だけでは、現場の本当のリスクが見えません。買い手は「代行会社を変えたらもっと利益が出るのではないか」という視点で見ています。自社で清掃スタッフを抱えている場合、そのスタッフもセットで引き継げるのかどうかは、地方の物件などでは相場を大きく左右する要因になります。人手不足の時代、オペレーションが完成していることは、何物にも代えがたい価値なのです。

デューデリジェンスで相場から減額されないために

基本合意で決まった価格が、そのまま着金するとは限りません。最終契約前のデューデリジェンス(資産査定)で、思わぬ減額を突きつけられることがあります。よくあるケースが「修繕リスク」と「法適合性」です。

例えば、一棟貸しの旅館業物件で、実は建物の防水処理が限界に来ていた場合。あるいは、消防設備が最新の基準に適合していなかった場合。これらの改修費用は、当然ながら売却価格から差し引かれます。現場を知る人間からすれば「これくらい騙し騙し運営できる」と思うようなことでも、M&Aの舞台では「重大な瑕疵」として扱われます。

これを防ぐには、事前に「インスペクション(建物診断)」に近い自己点検を行っておくことです。不具合を隠して高く売ろうとするのではなく、「ここには不具合があるが、その分を考慮した価格設定にしている」と先に提示する方が、最終的な成約率は高まり、結果として納得感のある相場での売却が可能になります。

民泊売却にかかる諸経費と手残りの計算

相場価格で売れたとしても、全額が手元に残るわけではありません。M&Aには特有のコストがかかります。ここを計算に入れておかないと、譲渡後の納税タイミングで資金繰りに窮することになります。

  1. 仲介手数料:成約価格の数%(最低手数料が設定されている場合が多い)
  2. 譲渡所得税:個人なら約20%、法人なら法人税率が適用される
  3. 消費税:家具などの資産譲渡部分にかかる消費税
  4. 専門家へのコンサルティング料、契約書作成費用

特に法人の場合、事業譲渡で得た利益はそのまま雑収入となり、他の経費と相殺できない場合は多額の法人税が発生します。「3,000万円で売れた」と喜んでいても、税金や諸経費を引いたら手元には半分強しか残らなかった、というケースも珍しくありません。売却相場を考える際は、常に「税引き後の手残り(ネットキャッシュ)」を基準に逆算して、最低売却希望価格を設定するべきです。

最後に

民泊の売却相場は、景気動向やインバウンドの回復状況によって刻一刻と変化しています。2016年当時に比べて市場は成熟し、買い手の目も非常に厳しくなりました。しかし、それは裏を返せば「正しく運営されている良質な物件」が正当に評価される時代になったということです。あなたがこれまでゲスト一人ひとりに向き合い、地域と共生しながら積み上げてきた運営の結晶は、必ず誰かがその価値を認めてくれます。相場を知ることは、自分の努力を客観的に評価することでもあります。もし、今の自分の物件が市場でどう見えるのか、本当の価値を知りたいのであれば、専門的な知見を持つパートナーを頼ってみてください。

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