民泊や旅館業の事業譲渡を検討する際、建物や許可と同じくらい、あるいはそれ以上に重要な資産となるのが「現場を支える従業員(スタッフ)」の存在です。2016年からこの業界で、現場のオペレーション構築や組織運営に携わってきた経験から言わせてもらえば、従業員の雇用をどう扱うかは、売却価格や譲渡後の事業継続性を左右する極めてシビアな経営判断となります。
ぶっちゃけた話、優秀なスタッフが一人抜けるだけで、民泊のレビューは一気に崩れます。逆に、運営に熟練したスタッフがそのまま残ってくれることは、買い手にとって「即戦力のチームを買える」という巨大なメリットになります。ここでは、雇用承継の法的なルールから、スタッフの離職を防ぐためのコミュニケーション術、そして実務上の注意点まで、現場の伴走者としての視点で深掘りしていきます。
民泊の事業譲渡と雇用承継の法的スキーム
民泊の譲渡において、従業員の雇用がどのように引き継がれるかは、譲渡の形態(スキーム)によって決定的に異なります。ここを曖昧にしていると、譲渡後に「不当解雇」を訴えられたり、買い手と「話が違う」と揉めたりするリスクがあるという視点も必要です。
事業譲渡と株式譲渡の違い
| 譲渡形態 | 雇用の取り扱い | 現場での実務 |
|---|---|---|
| 株式譲渡(法人ごと売却) | 雇用契約はそのまま維持される。 | 労働条件は原則変わらないが、実質的な経営者が変わる不安への配慮が必要。 |
| 事業譲渡(一部または全部の事業譲渡) | 原則として、従業員の個別の同意が必要。 | 新オーナーと従業員が、改めて雇用契約を結び直す手順を踏む。 |
現場で多い「事業譲渡」の場合、雇用契約は自動的には引き継がれません。現在のオーナー(あなた)と従業員との契約を一度終了させ、新しいオーナーと契約を結び直す必要があります。この際、従業員には「新しい会社に移るかどうか」を選択する権利があるため、彼らがNOと言えば、その瞬間に運営チームは解散となってしまうリスクがあることを経営者は理解しておくべきです。
スタッフの離職を防ぐ
「オーナーが変わる」というニュースは、現場のスタッフにとって、これ以上ないほどの不安材料です。「給料は下がるのか」「新しいオーナーは厳しいのか」「そもそもクビになるのか」といった疑念が、一瞬にして士気を下げます。優秀なスタッフほど、不安を感じるとすぐに次の職場を探し始めてしまいます。
- 告知のタイミングを戦略的に決める:早すぎれば動揺を招き、遅すぎれば不信感を生みます。基本的には、譲渡契約がほぼ確定した段階で、誠意を持って伝えるのが定石です。
- 買い手のビジョンを共有する:「なぜこの人に譲るのか」「新しいオーナーのもとで事業がどう発展するのか」を熱量を持って伝えます。単なる「逃げの売却」ではなく「攻めの交代」であることを理解してもらう必要があります。
- 労働条件の維持を交渉材料にする:買い手に対して、一定期間は現在の給与水準や勤務形態を維持することを譲渡の条件として組み込むことが、現場の安心に繋がります。
実務上の一次情報として、売主と買主、そして従業員が一同に会する「顔合わせの場」を設けることは非常に有効です。新しいオーナーの顔が見えるだけで、不安の大部分は解消されることが多いからです。
労働条件の引き継ぎと「不利益変更」のリスク
新しいオーナーが「これまでの条件は引き継げない」と言い出した場合、非常にデリケートな問題に発展します。例えば、これまでの給与体系や手当を削減する、あるいは休日の設定を変えるといった「労働条件の不利益変更」は、法的なハードルが極めて高いものです。
また、有給休暇の残日数や、勤続年数に基づく退職金の計算などをどう引き継ぐかも、契約書で明確にしておくべき項目です。これらを曖昧にすると、後から「前のオーナーの時はこうだった」という不満が噴出し、現場がギスギスする原因になります。
清掃スタッフや外部パートナーとの関係維持
民泊運営の要である「清掃」を自社スタッフで行っている場合もあれば、外部の清掃業者やフリーランスに委託している場合もあるでしょう。雇用契約ではない委託契約であっても、そのパートナーシップの承継は極めて重要です。
- 物件の癖を熟知している価値:「この部屋のこの備品はここ」「この季節はここが汚れやすい」といった、マニュアル化できないノウハウは現場の人間にしかありません。
- 緊急時の対応力:鍵の不具合や水漏れなど、いざという時に駆けつけてくれる信頼関係は、一朝一夕では作れません。
買い手に対しては、これらの外部パートナーとの良好な関係も「査定価格の一部」としてアピールすべきです。「清掃業者もそのまま引き継げるので、初日からトラブルなく運営できます」という一言は、特に運営経験の浅い買い手にとって、何物にも代えがたい安心材料となります。
退職を選ぶスタッフへの誠実な対応
どれだけ手を尽くしても、「オーナーが変わるなら辞める」という決断をするスタッフは必ず出ます。これは仕方のないことですが、その際の去り際もまた、経営者の器が問われる場面です。
これまでの貢献に感謝し、再就職の支援や、円満な形での退職手続き(有給の消化や離職票の発行など)を迅速に行うこと。そして、そのスタッフが持っていたノウハウが、新しいチームに確実に引き継がれるよう、最後のアテンドを依頼すること。ぶっちゃけ、ここを適当に済ませるオーナーは、後でSNSなどで悪評を流されたり、別の場所で競合として立ちふさがられたりするリスクを自ら作っているようなものです。
買い手がチェックする「雇用関連のデューデリジェンス」項目
プロの買い手は、単に人数を見るだけでなく、労務管理が適正に行われているかを厳しくチェックします。査定の段階で以下の項目が整理されていないと、「コンプライアンスリスクがある」とみなされ、大幅な減額対象となる可能性があります。
- 雇用契約書の有無と内容:全従業員と適切な契約書が締結されているか。
- 未払い残業代の有無:民泊は不規則な時間帯の対応が発生しやすいため、ここが最大の懸念点となります。
- 社会保険の加入状況:法令に則った加入がなされているか。
- 就業規則の整備状況:一定規模以上の事業場であれば必須です。
経営判断としては、譲渡を意識し始めた段階で、一度労務の棚卸しを行い、不備があれば修正しておくべきです。「ホワイトな職場」であることが証明できれば、それはそのまま売却価格の上乗せ要因になります。
民泊特有の「アカウント評価」と従業員の関係
Airbnbなどのプラットフォームでの評価は、実は現場スタッフの熱意に支えられています。メッセージの返信速度、清掃の細かさ、ゲストへのちょっとした気配り。これらは全て「人」が行うものです。
買い手がアカウントの評価を引き継ぎたいのであれば、その評価を作ってきた「人」もセットで引き継ぐのが、最も合理的でリスクの低いやり方です。査定の際、レビューの内容を分析し、「特定のスタッフの対応が名指しで褒められている」ような事例があれば、それを買い手に示しましょう。そのスタッフが残ることの経済的価値を、具体的な数字(レビュー維持による売上予測など)で裏付けることが、有利な売却への鍵となります。
最後に
民泊という事業のバトンを誰かに渡すとき、私たちはつい「建物」や「数字」にばかり目を奪われがちです。しかし、その数字を作ってきたのは、間違いなく現場で汗をかいてくれたスタッフたちです。彼らの生活を守り、新しい環境でも輝けるように配慮することは、経営者としての最後の務めであり、結果として、あなたが大切に育ててきた宿の価値を守ることにも繋がります。
雇用承継は、法的な知識だけでなく、人間の感情を扱う繊細なプロセスです。強引に進めて現場を壊すのではなく、丁寧な対話を通じて、全員が前を向けるような譲渡を目指してください。一人で判断するのが難しいときは、実務と労務の両方に通じたプロの力を借りることも検討すべきです。
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- 幅広いネットワークと信頼性:「人の価値」を正当に理解し、スタッフを大切にしてくれる信頼できる買い手を迅速にマッチングします。多くの成約実績が、あなたのチームと資産を守ります。
- 継続的なフォローアップ:譲渡後の労務トラブル防止や、スタッフの定着支援など、取引が終わった後も長期的な視点でお客様の成功を支え続けます。
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